戦友よ、黄金の骨壷の中で泣け

ここは東京のど真ん中
天皇一家が住む皇居に近い
千鳥ケ淵戦没者墓苑には
アジア・太平洋地域にまたがる
日中戦争ならびに太平洋戦争の広大な戦跡地から
遺骨収集団が持ち帰った
氏名不祥の日本兵士の遺骨や
名前がわかっていても引き取り手のない遺骨など
三十有余万体が安置されているという。
そして、その中から特別に選ばれた
何名分かの兵士の骨が
昭和天皇が直々にくだされた金銅製の骨壷に
納められているのだ。

なんという名誉だ
なんという光栄だ
これこそ日本軍兵士最高の誉れというものではないか。

戦友よ、
俺といっしょに戦争にかりだされ
弾にあたったり病いに倒れたりして
死んでしまった友よ
今は小さな小さな骨になって
天皇陛下御下賜の骨壷に入れられてしまった友よ。

黄金の骨壷の中は
どんな具合だ
今のお前たちの住み家は
どこを見ても金ピカで、デラックスで、
とても眩しくて
とても居心地がいいというのか
ビルマやフィリピンやニューギニアのジャングル
あるいは中国大陸の曠野で
野ざらしになっていた時よりも
格段に気分はいいというのか。
戦友よ、俺だけにこっそりと教えてくれ
いったいそこは極楽なのか
それとも地獄なのかを。

日中戦争従軍四年の体験を持つ俺も
危うくこの黄金の壷にいれられるとこだったと思うと
背筋が寒くなってきた。
俺がもしも戦死者なら
異国の密林や曠野で野晒しになっている方が
よっぽどいい
誰にもかえりみられず
そのまま土になってしまう方が
はるかにましだ。

「国のためいのちささげしひとびとの
 ことをおもえばむねせまりくる」

といった昭和天皇の
下手糞でいいかげんな和歌が
秩父宮妃殿下染筆の石碑となって
麗々しくかかげてある
千鳥ケ淵戦没者墓苑などに
絶対に収容されたくない。

まして金ピカの天皇の骨壷に入れられるなんて
まっぴらごめんだ
そんなことをされたら
おれはあまりの屈辱に耐えかねて
死んでも死にきれない。
黄金の壷の中で毎夜毎夜泣いてやる
毎夜毎夜暴れてやる
壷を叩き壊して
化けて出てきてやる。

戦友よ、黄金の骨壷の中で泣け!

戦友よ、黄金の骨壷の中で

黄金の涙を流して泣け!

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