浪速の詩人工房

なぜお前は姿を見せない

 
パソコンを操って
インターネットにアクセスしている時も
満員の京阪電車にゆられている時も
桜吹雪の淀川堤をさまよい歩いている時も
湯豆腐で酒をちびりちびりやっている時も
お前は私にぴったりとよりそっている
でも、お前の姿はからきし見えない
声もまるっきり聞こえない。

私は知っている
お前は私を愛していないし
憎んでもいない
そのくせお前は絶対に私から離れようとはしない
そして
お前は律儀にも知らせてよこすのだ
今年は戦争が終わってちょうど五十一年目
一兵士として中国大陸に渡った往年の美青年も
今ははや、老眠早く覚めて常に夜を残(ざん)す人。

ああ、時間よ
なぜお前は姿を見せない
戦争で死んだ者の上も
生き残った者の上も
闇夜の月のようにやさしく照らしながら
音もなく流れ行くものよ。

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