浪速の詩人工房

煙草のけむり


後ろ手に縛り上げられ
首を刎ねられる直前
抗日ゲリラの精悍な男は
煙草を吸わせろと言った。
このささやかな願いを誰がこばみ得よう
抜き身の日本刀をひっさげて
男の背後にまわっていた陸軍歩兵少尉は
そばの兵士に命じて
火のついた煙草を男の口にくわえさせた。

勇者の高い鼻梁から
真っ直ぐに
吐き出される
二筋のけむり。

おお、陽光煌めく江西省の一角
数十本の揚柳が一斉に芽を吹き
反りのきつい典雅な石橋が架かる
クリークのほとりへ
音もなく這って行く
煙草のけむり。

ホームページへ